日本語教師の徒然

佐藤 京子

 バンテアイミエンチェイ州へ赴任して9か月が過ぎました。首都プノンペンからバンテアイミエンチェイ州まではバスで8時間、首都にあがるのも任地に戻るのも気合いが必要な距離です。
「そこってカンボジアのどの辺り?」
 と言われることもあるこの州はカンボジアの北西部に位置し、バッタンバン州、シエムリアップ州に挟まれています。北西部の高等教育機関における日本語教育はバッタンバン州ではバッタンバン大学、シェムリアップ州ではアンコール大学、そしてバンテアイミエンチェイ州ではミエンチェイ大学になります。学科として機能しているのはアンコール大学ですが、それでもプノンペン大学とのレベル差は比べものになりません。むしろ民間の日本語学校のほうが質の高い教育、質の高い人材を輩出できているようにも思えます。
 私の職種は日本語教師なので任地での日本語普及が活動の軸となっています。然しながら日本語は学科でもなく単位認定もないコースとしての運営なので、赴任直後の学習者たちのモチベーションは驚くほど低いものでした。専攻科目ではないことが要因かとも思われますが、「日本語は楽しい」と思ってもらえるような活動を地道に行っています。現在、初級Ⅰクラスがふたつ、初級Ⅱクラスがひとつあり、いろいろな学部の学生たちが集まっています。カンボジアでの就職で最低限必要な日本語能力試験N3以上の合格者を出すことが私の夢であり、目標です。
 そんな日本語普及活動の一環として、2011年12月より、ラジオ日本語講座プロジェクトを開始しました。番組タイトルは「日本語好プレイ」と言います。よく「どうしてこのタイトルに?」と聞かれるのですが、この「好プレイ」、カンボジアの絶滅危惧種「コープレイ」にかけてあり、私の日本語教育の師匠である村上吉文日本語教育上級専門家に名付けていただきました。この番組は青年海外協力隊員(JOCV)で番組を構成しており、手作り感満載です。「日本語に慣れる耳を作る」ことを目的としているので、敢えて強い発音矯正を取り入れていません。日本と違い、録音・編集方法ともに想定外なことばかりでしたが、隊員たちの協力を得て順調に放送されています。視聴率がはかれないのでラジオ効果の有無はわかりませんが、2012年1月からの新クラスでは35名の日本語学習希望者が集まりました。今、彼らはひらがな・カタカナの学習を終えたところです。
 バンテアイミエンチェイ州を訪れる日本人はとても少なく、せっかく勉強した日本語を活かす場がありません。学習者たちに、日本人と話す機会を与えたい。いろいろな発音を聞いて、日本語に慣れてほしい。ミエンチェイ大学へのスタディーツアー、日本文化紹介、本の寄贈など、何でも構いません。みなさんのご協力と訪問をお待ちしております。
 最後に、現在ミエンチェイ大学における日本語・韓国語・中国語教育はクメール人現地教師がおらず、支援団体に100%依存しています。支援に頼ることのない自助努力の心が芽生えることを願いつつ、今行っている活動がこの地で活かされ、役立つように、残りの任期の活動も懸命に取り組みたいと思います。
JICA青年海外協力隊平成22年度4次隊 バンテアイミエンチェイ州 ミエンチェイ大学配属